福岡の高校に進学をしたと言ったってねぇ、お兄ちゃんがマットモに通学したのは桜の季節までのことでした。気紛れな春風がピンクの花弁を薙ぎ払い、葉桜の幹にゲジゲジ毛虫が蠢く頃には、登校することが稀になったんです。下宿へ引き篭もりして、ヒッタスラァ〜にシンナーを吸っていたの。お兄ちゃんとしてはですねぇ、挫折感に覆われた鬱々の心を麻痺させたぁ〜い、の唯一念だったと思うの。そうしないと、精神の心棒がカッキンと折れちゃった痛手に耐えられんかったとよっ。
夏休みに入る直前でした。お兄ちゃんの学級担任の先生が、お母さんを呼び出したの。
ナァ〜ンも事情を知らないkokoroでしたが、天神のデパートで美味かもんをパクつける期待感にワクワクしながら、お母さんに同行したのでした。
担任の先生との面談が終わり、教員室から出できたお母さんのお顔が曇っていた。
お兄ちゃんが登校拒否していたんでっす〜。タッマァ〜にでも教室に姿を見せていたのが、一学期末の試験が終わってからはマッタクゥ〜に不登校なんよっ。直接の原因はクラスメイトとの喧嘩沙汰のようだった。お久しぶりぃねぇ〜、と気紛れに登校するお兄ちゃんですが、トロロンとした心持ちで授業に臨んでいます。脳髄がシンナー漬になったご酩酊状態ですからぁ〜、眸の耀きは冴えを失っています。緊張感ってものが喪失したお顔です。笑うでもなく泣くでもなしで、のっぺらりんとしたものです。精神の均衡が保てない表情は、どこか薄笑いを浮かべたようにも見えます。敵意を抱いてお兄ちゃん見ている人だったら、無視されたとも馬鹿にされたとも思えたでしょう。不幸なことにですね、そんなお兄ちゃんにガンガン光線を飛ばした悪ガキくんがいたんです。脳幹麻痺の精神状態は、ガンガン光線なんかにマッタク動じない。だっから悪ガキくんがナメラレタ、と勘違いしたんは無理もなかったのよね。そんな悪ガキくん達が、下校するお兄ちゃんを待ち伏せして、ヤッツケロー!と襲撃したんだってぇ〜。でもさぁ、お兄ちゃんは巨漢です。サッカーで鍛えた肉体は強靭そのもの。シンナーに心地良く酔ったラリラリー状態でも、神経は薬物中毒に特有の過敏反応をします。自己防衛本能が研ぎ澄まされています。しかし、敵とか味方とかの正常な判断能力は停止状態です。でぇもね、一旦攻撃されたとなれば、防衛本能が太か(デッカイって意味です)身体を奮い立たせるんです。ありゃりゃぁ〜、と悪ガキくん達がご自分の不覚を悟った瞬は、ドッデェ〜ンと地べたへ転がされています。サッカーで磨いた俊敏さが、相手の蹴りをサッと交わし、ヘッディングシュートで鍛えた強靭な前頭部が、悪ガキくんの額、お腹、腰へとドッドッドッン!ガッツン!と怒涛の頭突をカマシます。頭突きの一発で悪ガキくんを粉砕しちゃったみたいなんよね。相手の悪ガキくんが次々に倒れ込んでも、狂ったよう(そうです、狂っているんデッスねぇ〜)に猛攻撃を続けます。自制心麻痺だからぁ〜、暴れようが半端じゃないの。こうなったらですね、危険覚悟で間に割って入り、悪ガキくん達を助けちゃろぅ、なぁんてねぇ、無謀なことをする殊勝な人なんていません。
結局は通行人に警察へ通報されて、全員が補導されちゃったんです。
警察の事情聴取に、あぁ〜俺もこれまでかいなぁと思った、と悪ガキくん達が揃って答えたそうです。そりゃそうだ、とお兄ちゃんの強さを知っているアタシは思ったねぇ。
悪ガキくん達は学校から停学とかの処分を受けたようだけれど、お兄ちゃんは被害者だってことで注意だけで済んじゃった。だっけっどぅ、翌日からは登校拒否を決め込んじゃたんでっす。
先生はお母さんに、このまま欠席が続くようだと,単位不足で新級が難しいことになるって告げたんです。お兄ちゃんは授業をろくに受けていないのに、テストの成績は学年トップでした。だからね、授業を受けさえすれば進級に問題は、なぁ〜んもなかぁです何てぇ、こともなげに先生が言うんだぁ〜。長時間の面談の結果、ともかく夏休みの補修授業を受けさせて、単位不足を解消させるってことになったの。幸い(?)にもですね、お兄ちゃんがシンナーを吸引していることは、学校の誰も知らなかった。この時点で、薄々でも?っと感づいていたのはお母さんだけでした。
写真は雨に煙る今夕の広島市内です。
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